東京列島改造論:IKEA秋葉原店

東京の街を歩きながら問題点を探りつつ身の丈レベル?の解決策を提案する…それが「東京列島改造論」である。資料的裏づけも実現性もない妄想だけど、一般人が「都市」とか「街」を計画したらこんな風になる…と言う権利はある気がするので権利行使である。説得力がないのがとりえである。ちなみに、これまで東京江戸化計画、深川美術館ネットワーク計画ときた。第3回目は「ポスト秋葉原」としての「IKEA秋葉原店の誘致計画」。「秋葉原=おたく」のオルタナティブがイイカゲン出てきてもいいのではないかしら…という妄想からの出発である。


アキハバラはくさい。街の匂いはその土地の食べ物で決まる場合が多い気がする。これがなにより典型的なのは成田空港はみそ汁、ソウル空港はキムチ、アジスアベバ空港がインジェラくさいように、食べ慣れている食物の匂いは鼻につかないけれど旅行者には(好悪は別として)違和感をもって認知される現象である。そこからすると、アキハバラのくささは、アキハバラという街が食べるおたくという食物のにおいであるのかもしれない。山手線の駅に降り立つ瞬間から土地からしみ出る街の体臭はひとつの個性だろう。しかしそれは特に一般の女性にとっては排除的なにおいでもある。


駅前再開発のひとつの目標は情報産業の拠点づくりのようである。これによりイマドキなガラス張りのオフィスビルが建設され街の景観は整理されたけれど、基本的に街のくささは変わらないので長居したい気にはならない。美味しい食事のできる場所がない秋葉原で、ビルの地下街に場違い気味のレストランが誘致されたのはひとつの功績だとしてもだ。同じ値段を払うなら秋葉原よりもせめて上野精養軒まで足を伸ばして洋食を食べたほうが時間辺りの贅沢さの付加価値も高い…と計算するのが消費者行動の一般傾向だろう。


秋葉原の独特なにおいは「流れ」のなさがひとつの理由であるだろう。道幅の狭さとかデザインの不統一さ…などなど色々あるだろうけど、より意識レベルで言えば、秋葉原の固定的な客層の欲望が画一的であるがために、街ににごった空気が滞留するのではないかと思う。これは渋谷のセンター街のどこか殺伐とした空気とも共通しているとも思う。


新たな駅前開発はこうした既存の秋葉原の街に対するひとつの解決案であったのだと思う。しかし、秋葉原の魅力である「腐」?の部分を排除・遮断してディベロッパー主導のアリガチな高級化を狙う戦略が割合に露骨に出ていたため、街全体に新たな「流れ」は生まれるべくもなかった。保守化志向をますます強める世界的な流れの中で、東京都心部でも一極集中化の傾向が進んでいる。高級志向の金持ち東京ビトは六本木、青山、丸の内など城南地区のオシャレゾーンへと向かいますます整備が進められる。一方、城北方面の中途半端な開発はヴィジョンや持続性がイマイチ欠けている。小売業の街・秋葉原の高級化計画や頭脳化計画がうまくいくとはなかなか想像しにくいしなんだかどこか間違えている気がするし、結局は従来の秋葉原に飲み込まれるかたちで長持ちしないだろう、と思わないでもない。


そこでだ。長期的な視点から秋葉原を見る場合、オフィスビルががら空きになった時こそがチャンスである。東京バブルがはじけて秋葉原の賃貸料が低下した頃にでもビル全体を北欧のリーズナブルな家具屋「IKEA」に変えたらなかなか楽しいのではないだろうか。


ちなみにIKEAは組立家具やキッチン用品などを揃える北欧発の大型家具店である。現在はヨーロッパ中にブランチを出し、日本では千葉、神奈川店がオープンしている。自動車で来店し大きなカートに商品を積み込みショッピング。パリ郊外店では店内にカフェテリアがあり、家族連れはショッピングの合間に軽い食事をとりながら一日家具を眺めて過ごすパターンがみられた。家具は独居用、ファミリー用などバラエティーがあり、またクリスマスにはツリー、夏にはビーチセットなどを販売するなど、季節に配慮した商品展開である。


なぜ秋葉原IKEAかといえば、まずは店舗のデザインがカオティックな秋葉原にはピッタリ…であるからだ。小さな店の集合体としての秋葉原の魅力を維持しながらランドマークとなりうるインパクトのある場所を作るには、すでにブランディングされた上に秋葉原にはない異業種のファミリー向けの店舗の誘致が効果的だろう。かといってGAPや無印良品など清潔志向のブランドでは秋葉原のパワーに負けてしまう。だいたいイマサラ珍しさに欠けている。無印のシャーペンを買いにわざわざ「秋葉原」という特殊な街に来る理由づけはない。


そこで、現時点で都内に出店がなく、日本的なしがらみ(?)からはずれたIKEAを誘致することは一定の集客効果が期待できるだろう。秋葉原の電車の便のよさが強みである。山手線、京浜東北線総武線東京メトロ日比谷線、さらにつくばエクスプレスが乗り入れていることからも、商圏は東京、千葉、埼玉、茨城まで広がる。東京及び東京近郊のベッドタウンから家族連れがやってきて休日に遊びにくる場所としてIKEAを想定する。カラフルでオシャレかつ商品単価が低いため(ガラスの小皿が100円程度)、気軽にショッピングも楽しめる。IKEAに来たがる家族は秋葉原の迷宮にもちょっぴり紛れ込んでみたくなるだろう。すると、今まで単身男性で占められていた秋葉原の街にさらにファミリー層が加わることで、街の空気の循環が多少は活性化されるだろう。


問題はIKEAは在庫常備型のために広い敷地面積が必要であることだ。ヨーロッパでは郊外型の大型店舗が基本であり、小型のキッチン用品のみを販売するブランチがたまにあるくらいだ。しかし、秋葉原にこだわるのであれば、ここは多少規模を縮小させてでも秋葉原の街に青と黄色の迫力のある店舗をデデンと出現させ迫力でごまかす。もしくは秋葉原に関しては倉庫を埼玉あたりにしてすべて配送式にするなど、それほど困難ではないだろう。


要するにIKEAがあれば秋葉原に行きたいなあ、という個人的な願望なのである。