「中村宏 図画事件 1953-2007」★★★★

中村宏 図画事件 1953-2007」@東京都現代美術館★★★★

【評価】4

束の間の雨だれ、来週からの井戸掘りの前に評判の展覧会を見てくる。映画館より美術館が好きである。



それはともかく、中村宏の一眼・セーラー服少女は小学校の図書室で読んだ児童書で見かけた気がして、題名を思い出そうとしても思い出せないでいる。調べてみたら、たぶん『消えた二ページ』という本かと思うけど確証無し…図書館で借りた本の失われた2ページを探しに目的地不明の電車に乗っていく…という不条理系の物語だった気がする。気分が暗澹として最後まで読めなかった記憶がある。


中村の60年代風の濃い絵画世界で美術展ならではの絵画の質感が楽しめた。明日を震撼しながら未来を夢見ることのできた60年代の矛盾と楽観。未来予想図を失ってしまった21世紀のイマドキとちがい、たぶん、表現に必然性のあった時代なのかなとも思う。


現美では他にも「MOTアニュアル展」と中国の若手作家邱黯雄 (チウ・アンション)さんの映像作品が公開されていて、どれも手際よくまとめられて見応えがある。昨年の「大竹伸朗・全景展」も作品とキュレーションのコラボレーションが力強くてクオリティが高く見ていて元気にさせられた。


ところで大江戸線清澄白河駅から下町・深川を通り美術館へ向かう道のりは想像が広げられて楽しい。街のポテンシャルを感じさせられるというか、深川もどうせなら美術館に合わせた町づくりでもっと変身してもヨイ気がする。


バブル崩壊と長い冬の時代には粗大ゴミとこきおこされた美術館であるけど、バブル再燃の時代の匂いをかぎはじめた昨今、投資効果と経年効果もあいまって風格とたたずまいが出てきた。深川一帯は元は漁師町で昭和の初めまでは海のイメージが強く、さながら「日本のヴェネツィア」であったという(陣内秀信『東京』文春文庫)。現在の深川をみわたせば道幅も広く歩くのに快適でありヒトも優しい。深川には清澄公園の隣に深川江戸資料館があるのでこのふたつのミュージアムを結んで町づくり、商店街に美術系のショップを誘致して若者をよびこみ下町・美術通りになればいいなあ…などと想像しながら試食のアサリを食す。


アートな街のマストは「古本屋」「古着屋」「アンティーク家具屋」。それは新興住宅街における三種の神器、「ユニクロ」「マツキヨ」「無印良品」と同様である。よりヴァージョンアップするには「スタバ」、もしくはチョット広めの郊外型ドトールのようなものである。これが揃えば現美の集客力もアップまちがいなし(とも限らない)。その他、美術関係の組織、施設に対して多少の税制優遇などして、「アート」を集約させる。


こうして現代美術館の客層にリピーターになる理由づけをしてくれる。現在の所、下町風情はよいとしても、気軽に入れる食物屋がイマイチ不足している気もするし深川まで出向くことに付加価値も少ない。そこへ、ポンピドゥー・センター街のようなオシャレな古本屋さんや美術書の本屋さんやカフェなどあれば、美術館の行き帰りに急にアートな気分がもりあがりお財布の紐も緩くなる可能性あり。さらにより現状解決的には高齢化の進む界隈に若者をとりこむことできっと深川もより活性化が進むだろう。ついでに道沿いの肉屋がコロッケなど売ってくれればなおかつグー。


とはいえ、古本屋とか古着屋では利益率がイマイチ心配なので、例えば関東近圏の私立アート/デザイン系大学のブランチをつくるとか。表通りからちょっと引っこんだ場所にプレファブ・全面ガラス張りで虫かご的なさらしもの的アトリエを建設する。そして、そこで、アンビシャスな研究室単位でも個人単位でもよいのでアーティストのみなさんに公衆の面前で制作活動を行っていただく。深川にやってきたアート好きの通行人は脇道を入り、道ばたの焼き鳥をむしゃぶりながら昆虫観察的な視覚の娯楽を通じてアートに参加したようでなんとなく嬉しくなる。制作された作品は1ヶ月交代くらいで現代美術館の中庭に飾ってもらえば、大学の宣伝にもなるし、アーティストの将来にもつながるかもしれない。さらにアトリエの横に小さなオブジェ・ショップかなにかをつくってTシャツとかピアスとかお皿とか自作を売っていただき、飲み代を稼ぐ+ビジネス感覚を磨く活動も可能かもしれない。もちろんこの場合、建設・維持費は大学もち(=学生の親もち)なので東京都も税金を使わずに地域ブランドと資産価値が向上してウハウハ。


最終仕上げは、都知事の近親登用問題で話題になったナゾの公立文化施設トーキョーワンダーサイト」を深川に集約させる。現在本郷、渋谷、青山の3カ所に分かれてる非常に非効率な状態を解消すればお金もかからない。セキュリティの厳しい都会のまっただ中の高級オフィスビルで要予約で展示を行うという閉鎖性を解消できるとも思う。こうして、東京の「下町」を目玉にした世代混交型の文化的まちづくりが可能…とおもったけど、古本屋を作るよりそのほうがよっぽど難しいかもしれない。東京に集まるヒトは六本木とか青山とか華やかな響きにひきつけられるのだ。しかし、米国の土地バブルの臨界点がささやかれる中で昨今の表参道や青山に投資するのも大変だし深川のポテンシャルにかけてもよい気がする。まちがってるかしら。。ともかくガンバレ下町!…。