東京都美術館の公募展

都立美術館を巡る旅の第4弾は東京都美術館

(ちなみに東京都現代美術館東京都写真美術館江戸東京博物館と巡ってきました)


現在「大エルミタージュ美術館展」を開催中…なのだけど。東京都美術館を知るなら企画展よりやっぱり公募展。なぜか。


現在の東京都美術館は、1926年に「東京府美術館」として開館した。その目的は同時代の日本画や洋画の展示・紹介である。現在はコレクションをほとんどもたずに、美術団体による公募展やメディアタイアップ型の企画展を行う「貸し」美術館として機能している。こうした経緯からも分かるように、東京都美術館はそもそも「上野−芸大」を軸に、芸大出身の美術家が作品発表の場を求めて始まった美術館であり、美術団体による「公募展」こそが美術館の顔なのである。


現在の建物は1975年に前川國男設計で建てかえたもの。近年、公募用のスペースが手狭になってきたことから、2007年1月に六本木に開館予定の国立新美術館が公募展用の「貸し」美術館として東京都美術館の役割の一部を引き受けることになる。「上野」から「六本木」へと拠点を移す団体が出てきているようで、「上野」を中心に発展してきた日本の近代美術の地図が塗り替えられる転機を迎えているようだ。
国立新美術館(Wikipedia)


ここで公募展の新たな受け皿となる「国立新美術館」と六本木地区の再開発に目を向ける。


現在進められる六本木の都市再開発の嚆矢とされるのが不動産会社・森ビルによるアークヒルズである。1960年代の周辺用地買収に始まり20年をかけて完成したアークヒルズを中心に、六本木の開発戦略が進められた。三井不動産の手がける東京ミッドタウンと共に、国立新美術館の設立も六本木の文化都市としての戦略に組み込まれている。


上野の地で年月をかけて築き上げられた「日本美術」「公募展」文化を、巨大な資本投下により肥大化する六本木へと吸い上げる…その構図は現在の日本−東京のデパチカ的な都市のあり方の典型にもみえなくもない。それはともかくとして、上野の東京都美術館の今後のあり方が気になるところである。


六本木と上野は、東京の新旧の文化的盛り場である。この二つの街と美術館の関係をみつめると、日本における美術業界の特異性がみえてきてオモシロイ。


日本の美術業界の特異性とは、一般人にはよく分からない「二重構造」の存在である。それは、東京都美術館が「企画展フロア」と「公募展フロア」で構成されている状況が端的にあらわしている。つまり、一方に、一般人向けのメディアに支えられたアートの世界(国際展としての「大エルミタージュ美術館展」)があり、またそれとは別に、一般人の知らない所で実質的に日本の美術業界を支える美術団体の世界(国内画壇向けの「公募展」)が共存しているのである。公募展が対象とするのは恐らく美術コレクターであろう。一般人にとっては、「美大卒」の親戚知人でもいないかぎりなかなか縁のもちにくい場でもある。


もう忘れ去られた観のあるワダ・スギ盗作疑惑を思い出そう。芸術選奨文部科学大臣賞の授賞式で、爆笑問題やら並み居る著名人の中では知名度の低い日本人画家が、実際には政財界との強力なコネクションをもっていたことがとりざたされた。ワダ氏は「東京芸大油絵卒→国画会→芸術選奨」の上野系エリートコースを進んできたヒトである。キャリアアップのきっかけとなった「国展」は東京都美術館で開かれる由緒正しい公募展である(来年から六本木で開催)。この画家こそが国画会という格式高い古参の美術団体の会員である。美術団体を活動領域に置くことで、日本の富裕層(=コレクター)と結びつく。富裕な固定客からのバックアップを受けるのだから、一般大衆に対する知名度など重要ではないのである。ソノことを考えると、東京都美術館をキーワードに「日本美術」の(一般人からすると)複雑な構造がかいまみえる。あのヒトは今であるが。
拙論「「アネハサン」にみる危機管理術:2つのニッポン「偽造」問題」
盗作疑惑(wikipdia)


六本木という商業地区に公募展のための大型スペースを確保した事実そのものが日本の美術業界のパワーバランスを端的に示している気もする。新たな「貸し館」美術館が六本木の街でいかに機能するのか、気になるところではある。のだけれど、とりあえずその前に、上野の山の小ぶりな東京都美術館で花開いた「公募展」文化を懐かしむ旅に出る。



入口には開催中の公募展リストがずらりとならんでいる。そういえば幼少時、ベレー帽をかぶった親戚が二科展入選!で上野を訪れた記憶がよぎった。


館内はチケットブースが1〜5番まで並び、各公募展のチケットもここで買うことが出来る。企画展1500円、公募展は平均500円。とはいえ、人垣のできたエルミタージュ展以外のブース以外は静かである。公募展のお客さんは大抵関係者なので、みなさん入口で招待券らしいハガキをだして中に入るのである。館内の公募展スペースは関係者+家族で賑わっている。12月だけで12団体が展示を行っているので、すべてを見てたらお小遣いがなくなっちゃう。


吹き抜けや各ブースの入口から展示室の内部をのぞきみると、大作ぞろいの肖像画展から子供の絵画展まで展示作品は様々。とはいえ、この日本画壇の聖地・都美術館で公募展が開けるのも特権的なことなのである。


唯一入場料無料の「掃雲書展」をみつけ、見学。書道展。同人らしきループタイのオジサンがじぶんの作品をパシャパシャ撮影していた。


展覧会のレイティングします!…と宣言したわりには、作品や展示よりも「美術館」に目がいってしまう。作品鑑賞力のなさである。トホホ。要努力と反省。