「ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展 江戸の誘惑」★★★★

ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展 江戸の誘惑」江戸東京博物館
【評価】4.0 (作品:4.0 キュレーション4.0)



12月8日、両国国技館に隣接するドスコイ博物館は満員御礼。会期終了の12月10日を目前に会場はひきもきらぬ賑わいだった。


ボストン美術館に長らく保存されていた幻のウィリアム・ビゲロー氏のコレクションが初来日。菱川師宣喜多川歌麿葛飾北斎歌川広重らが手がけた肉筆による浮世絵を一挙、公開。


アメリカの貿易商人の家に生まれたウィリアム・ビゲローは、ハーバード医学校の教授である父と同じくハーバードを出て医師となる。しかし生活に困らない富豪の息子が興味のない医者の生活を続けるべくもない。貝塚の研究で有名なモースの本を読み感銘を受け、思いつきで日本にやって来る。そして日本に滞在して当時芸大の教授をしていたフェロノサと交流を深めつつ、自分好みの浮世絵を多く買い集めたという。フェロノサなどにしてみれば「浮き世」を描く体臭画などおゲイジュツのはしにもぼうにもかからないね…とあからさまに低俗視していたみたいだが、ビゲロー先生はめげずに、みずからの審美感を頼りにお気に入りの作品を買い集める。その後本国に帰国し、収集した浮世絵をボストン美術館に寄贈。

その後、ビゲロー・コレクションは作品数があまりに膨大なため、美術館の奥底で永い眠りについた。それが、近年になり日本の日本美術専門家で構成される研究団が調査を始め、今回の展覧会の運びになったという。

(*この辺りの経緯は展覧会パネルをみた記憶の限りです、あしからず)


肉筆の浮世絵の華やかさは素直に楽しめるし、作品それぞれに拡大判のキャプションがほどこされている。それぞれも保存状態はよいし、コレクションにまつわる逸話も興味深い。何よりこの展覧会、企画が狙いをはずしてないところが清々しい。まずはターゲットが明確である。「旅行や文化的趣味を楽しむ余裕のある60代以上」の高齢層を客層としてターゲットにすることで、はとバス系ツアーのおじいちゃんおばあちゃんで館内は閉館までひきもきらぬ大入りで、なかなか華やかな雰囲気。和風グッズを集めたミュージアムショップや店内の喫茶店などだいぶ繁盛、さながらルーヴル美術館である。というよりポンピドゥーかな。



ちなみに江戸東京博物館は大学時代に博物館学の課題で行ったきりだった。けれど、今回久しぶりに訪れて、印象もだいぶかわった。なんというか、建築の生命力と力強さに圧倒される。


江戸博はムッシュー・メタボリストの菊竹清訓氏が鈴木都政時代に設計した建物である。両国国技館に隣接するこのドスコイ博物館は、バブル崩壊後、不良債権美術館と叩かれていた記憶がある。力士の銀杏返し風のファサードや、3階に茫漠と広がる吹きさらしの大広間と所在無な警備員さんたち(*一応、災害時の緊急避難場だそうです)、そして江戸の生活を知るためというには異様に大掛かりなヴァーチャル常設展示…など、若かりし頃はバブル崩壊後の萎縮した現実空気の中でアホクサ感を覚えないでもなかった。



しかし、それこそハイアートにかぶれた頭でっかちの若造のはすに構えた鑑賞態度。浅はかな感想などつきやぶる力強さと包容力のある空間を前に、建物はしっかり生命力を保ちつづけていることを実感。メタボリズムバンザイ。やっぱり文化は余裕から生まれるものなのね…とさもしい日々を反省する。バブル再燃の一方、貧するは鈍するなんだけどね。


【参考】
江戸東京博物館サイト