「伊東豊雄 建築|新しいリアル」★★★*

伊東豊雄 建築|新しいリアル」@東京オペラシティアートギャラリー
【評価】3.5(作品:4/5 キュレーション:3/5)


今年一番の話題の建築展を見にいった(11月26日(日))。


100mを9秒台で走るアスリートと16秒で走る一般人を比較しその優劣を問うことに意味はない。なので、上記点数はあくまで絶対評価。この展覧会、相対的にはコンセプトから実施まで完成度の高いもので、わたしでも十分に楽しめた。ひとりの建築家の過去から現在にいたるクロノロジーを手際よく紹介する構成もさすが…である。


ただ今回の場合、そうした展示が既存のイメージを繰り返す「紹介」にとどまっている点が、先日の大竹展に比べ辛めの点数に結びついた。つまり、大竹展のような、大量の作品を堆積させる展示により生まれる展示空間としての想像/創造性がイマイチ不足しているように見えた、ということ。


もちろん作品やデータの紹介や整理はきわめて重要な作業である。さらに、建築展の場合、美術展の作品展示のように、ホンモノの建築作品を会場に並べることは無理…という永遠の不可能性がある。ただ、見る前の期待値が高かったからかもしれないけれど、「伊東豊雄」がよびさましてきた、見るものの想像をはるかに超えてみせるサプライズに、少なくともわたし自身は会場の中でめぐりあわなかった。なぜか。


個人的にはコンセプト面で想像力の飛躍が恋しく思われたからだと思う。ヒール靴を大後悔させる養老天命反転地的な屋根の実寸モデルはそれはそれでオモシロいけれど、そもそもの展示コンセプトの深度を深めないと、結果的に展示全体が表面的な印象を残してしまう。展示を見る前の想像を裏切るような、もしくは想像もしていなかった体験がほしいのである。


去年ポンピドゥーの狭い展示室で、収蔵されたばかりのゲントのオペラハウスの模型に初めて遭遇し、しばらくその場から離れがたくなった。ピンクとホワイトの樹脂でできた模型が、何か分からない、今まで見たことも想像したこともない時間と空間のイメージをぼんやりと浮かび上がらせていたからだ。ゲントは未完のプロジェクトである。実際の空間になる前のイメージとしての建築模型がこれほどの力をもつことに、未来に残されるべきイメージとして模型が所蔵されることの意義を考えさせられた。模型ひとつで、すべてを見せ語ることができるという衝撃。


せんだいメディアテークしかり、「伊東豊雄」の魅力は、誰も見たことも想像したこともないイメージを提示し、さらに建築空間として実現してしまう強さだろう。それではその強さとは何か。そんな建築家とデザインの「核心」に意識的に踏みこめていれば展覧会として100点満点だったかなと思う。ということで台北オペラハウスの完成を楽しみにしてます。