美術の旅

たまには美術館に行こう…と、新宿・初台に出かけた。数週間前に上野でみた若冲展を見た以来である(面白かった、特に特別照明コーナー)。



「光の魔術師・インゴ・マウラー展」東京オペラシティアートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/exh74/index.html


ドイツ人照明デザイナーの回顧展。元ネタはヴィトラ・デザイン・ミュージアム(公式サイト)企画。東京巡回である。


作品に関しては、好みもあるだろうけど、ワイヤーや電線を使った線的な作品より、割れた皿の破片を組み合わせたシャンデリアやダチョウの足?を使ったスタンドなど、造形的な作品のセンスにオモシロみを感じた。

マウラーさん、ヴォリューム表現がうまいのだと思う。皿の破片という、本来はとても重い素材を、首をかしげた花びらのようにかたちを整え、ふんわり軽やかなガラス細工のようにみせる。光とフォルムを微妙にからみあわせる技量は、ある意味、古典的な彫刻家のそれに近い気もする。

ちなみにこの作品はかのアントニオーニの駄作『砂丘』の有名な最終場面をヒントにしてるそうである。砂漠の人工都市が爆破される妄想イメージ、粉塵吹き上がるリペティション…という、個人的にはドウダッテイイジャンな傑作シーンである。というのも、この爆発シーンがやたらと予算をたべたおかげで、そして、映画そのものがアメリカでこけて(「アントニオーニはアメリカをまったく理解してない」という批評が大勢)、イタリアの巨匠のアメリカ進出のもくろみはもろくもついえてしまった、という歴史的真実があるのだから。名のアル監督の作品であればどれでも名作であるわけではモチロンない。神話など必要ないのだ。


それはともかく、あと印象的だったのはは発光ダイオードをちりばめたダイニングテーブル+椅子である。キレイ。わがやに一台欲しい、すぐに醤油とお味噌まみれになるでしょうけど…。



展示に関しては、scenographyはおもしろかった。重箱ツツキ的ではあるが、クレジットや解説文に、ウーム、であった。壁のタイトルプレートに通し番号がついていないので、フロアマップをみても、展示作品がどこにあるのかよくわからない。会場そのものは狭いのにもかかわらず。おまけに上記の皿シャンデリアなど、壁にタイトルプレートさえ張られておらず、結局題名がよく分からなかった。それと日本語の解説文(翻訳だと思うけど)が、詩的、といえば聞こえがいいが、日本語として意味不明だった。稚拙。展示構成はおもしろい、さすが世界のヴィトラ・デザイン・ミュージアム様さま企画。受け入れ側に問題がある気がしてならなかった。


とはいえ、デザイン好きなら見て後悔はしない気もするので、初台に足を運んだことにまったく後悔はなかった。なんて。


それと、ここのギャラリーのコレクション展+個展は毎回オモシロイので結構好きだ。

収蔵展↓
http://www.operacity.jp/ag/exh75.php

Project N↓
http://www.operacity.jp/ag/exh76.php


本展よりも丁寧にみてしまうことが多い。

こちらは日本の油絵を中心とする日本の若手作家の作品を集めている。たぶん、このコレクションの選定ポイントは「キレイ」であることなんだろう。作品の仕上がりが技術的にどれも丁寧でキレイで、これはこれで美術作品をみる醍醐味のひとつなんだろうなあ、と思う。


ただし、キレイであればいいのかとも思うけど。インテリア的な絵画が多すぎて、表現としての弱さが気になる…。なんといってもチャイルディッシュな内面世界の反映に制作の根拠をもとめる作家が多い。ナルシスティックな幼児的願望の表現はえてして自慰的表現を抜けきれないことが多い。そういうのは、他人にしてみれば、so what?というか、面白くも何ともない。


内的感性が外の世界に開かれていくところに、新たな表現の可能性がみつかるはずなのに、「アートはフラジルな内面表現」的なステレオタイプが作家や美術表現、というより「美術」そのものをしばりつけてる…気がしないでもない。これがイマドキの現代美術全体の傾向なのかもしれないけど。しかし、キャンバスの枠を乗り越えていくような広がりを感じさせる作品がみたい、とも思う。「アート」という思い込みをすてたほうがいいと思うが。そんな簡単ではないのかシラン。


絵画というメディア、というより、アートというシステムそのものがイマドキの感性を伝えるのには古くなりすぎてしまったのかもしれない…というのは極論だろうかしらん。だけどそういう思いを変えてくれる現在進行形の作品にここ10年で出会えていないのもたしかだ。


逆に、パンフレットの表紙にもなっていた、木彫りの彫刻は迫力があってよかった。人像はアウラがでる。きっと時代は彫刻を求めているのだ。日本にルノアールの裸体像のような木彫刻をつくるヒトが増えたら楽しそうだなあ、と思う。


【明日は八つ墓村日本沈没