「アネハサン」にみる危機管理術:2つのニッポン「偽造」問題

江頭2:50と小嶋社長を足してお湯割にしたような画家氏のうつろな笑いを眺めながら、耐震偽造と盗作疑惑について思いをはせた。耐震も盗作も広く「芸術デザイン」に関わる偽造問題…。

つまり、瀬戸際に立たされたときの危機管理能力である。ゼッタイオレが悪者…の立場に立たされときにヒトはどうやってヒトに愛され続けえるか。

結論。姉歯氏の一本勝ちである。
なぜか。

ギャグ力の有無である。

姉歯氏は最初の登場の仕方からしてどこか冗談めいていた。簡素で殺伐とした自宅玄関口にはそぐわないデザイン系スーツをビシッときめた建築士氏、開口一番に「はい、偽装しました」とアッケラカンと罪状を認めてみせた。明らかな違法行為なんだからサッサと罪状を認め、「私が弱かったんでしょうね…」とヒトゴトのような口ぶりで自分に同情をさそい流れを作る、先手必勝法で勝利した。

太ったヨンサマ風のソフトで癒し系ないでたちで「妻がビョウキで…」とかまるで冬ソナな私生活を語られるうちに、メディアと視聴者は同情を誘われ、いつのまにか「敵」の矛先を強気一点張りの他の関係者たちにかえたくなってくる。

そもそも諸悪の根源であるはずの建築士が、逮捕されたにせよ、「叩き上げ」「母親思い」「下請けの悲哀」の言説をさそい、イカニモ「勝ち組」的風貌のその他関係者にくらべうまく批判をかわしてみせた。 彼の「責任転嫁」のレトリックは、他の関係者たちのそれとなんら変わらなかったのに。それが理性でわかっていても、ふくよかな福顔は、このヒトこそ社会の犠牲者、とココロの端で思わせるものがあった。

ヒトは姉歯氏を最初からなんとなく憎めなかった。その証拠に、ヒトは皆彼を「アネハサン」とよびつづけた。 親しみをこめて。

「アネハサン」幻想は地検に護送される際に、ついに「カツラ」という自己演出が剥ぎ取られるときまで破られることはなかった。完璧。オーディエンスはスキンヘッドのアネハサンを見て、「姉歯秀次」を初めて見るのである。そして嗚呼、ドラマは終わった…とエンディングマークに満足してしまう。問題はまったく解決していないのに。

もしも最初からスキンヘッドでメディアに登場していたら流れも少しはかわっていたかもしれない。たぶん「アネハサン」は他人の心を読みそれに応えるのがとても上手なのだろう。そうして生きてきたのだろう。愛されないより愛される方がいいに決まってる。愛されるには偽りであれ、多少のユーモアが必要なのである。

ヒトのココロをよみとりそれに絶妙に応えること、それがアネハサンの仕事力であり、耐震偽装事件の本質でもあった(取引先の「経済設計=鉄筋減らし」という「本音」を読み取る絶妙さ)。道化のようなギャグ力、キャラ力で、きっと出所後に「暴露本・真実すべて語ります!」本を出版し唯一売れるのはアネハサンだけだろう。表紙カバーは、カツラ前後の写真を2枚並べるとかね。どちらがホンモノのアネハサンか、誰にもわからないかもしれない。

一方、日伊をこえた2枚のソックリな絵画を前に、画家氏は出だしからつまずいた。キャラにおもしろみが欠ける。これは愛されないな…と思った。

たとえばダリの変装して出てきて、ホンモノだよ…とか、キット受けないであろうが、少しはギャグがほしかった。

いや、それより、ご本人が、モナリザの格好で「ダヴィンチコード」会場外で「私はホンモノです」…とか会見するとか、失笑を買いそうだけど。少なくとも、メディア向けにもっとインパクトのあるキャッチーな演出をしてほしかった。疑惑の真偽はわたしのしるところではないけど、ヤッチャッタ!とかいいながら、スギ氏とビスして握手して、自ら率先して「2人展」開催します!くらいのユーモアセンスはほしい。倫理的には問題があるにせよ、やりようによっては愛される芸術家がひとり生まれたかもしれないのに。画伯はみすみす、潜在的な擁護者であった日本側メディアと視聴者の同情を得るチャンスを逃したのである。

うつろな目で中途半端なイイワケなどしてるすがたに、このヒトはアネハサンのような確信犯的ギャグ力はもちえていないね、とは思った。中途半端な作品しか作れない作家の弱さだ。 恥じらいが、ないのだ。

エリートコースを辿ってきた画家氏、構図もタッチも色調もあまりに似てみえる2枚の絵を眺めると、「盗作」という言葉が説得力をまし、そのしかたも、嗚呼、ホーント頭カタイというか、アートの世界に足りないのはギャグセンスである…というよりギャグ力こそ表現で大重要…という確信はゆるがない。せめて天地逆にするとか全員日本人の顔にしとくとか工夫はほしかった。

偉大なる作家は偉大なるセルフプロデューサーであることがしばしばである。笑いを武器にしたたかに生き抜いてきたアーティストはたくさんいる。そういう才覚があるかないかだ。

たぶん、森美術館か東京タワーあたりで「スギ画伯・本物展」を開催すれば今年中ならソコソコのヒット間違いナシ。はとバスが停車する場所もなくなるくらい、違反切符パレードで警察繁盛、さらに「本場」の絵画が日本に送られてくることでワタクシ極東人の鑑識眼が向上すればいうことないかもしれない。