マトリョーシカ

幼少の夏。親戚の山荘にいくと、書斎のキャビネットに無数のマトリョーシカが並んでいた。



木製の人形の殻をパカパカあけていくと、果てに小さな小人にぶつかる。小人をいくらねじっても小人は小人のままだ。マトリョーシカの小人はマトリョーシカ自身の闇から生み出された無そのものだろう。無は見えないけれど見えている。マトリョーシカの最後の小人がいなかったら世界は成立するのだろうか。




駅からの夜道、肝ダメし目的で恩賜公園の池の端にある小さな鳥居をめぐってかえる。鬱蒼とした木々の立ちこめる鳥居は昼間でもひとけがない冷感スポットである。先日の満月の夜に通りかかると、祠の下にはいつくばった人影があり、ナニやらウンウン唸っていた。コワ〜イ。明るい夜空の下で池と橋を見晴らすと満月の光で水面のさざなみがぶるりと揺れた。身の危険を感じて早々にひきあげた。